工学的発想から生物学的・生態学的発想へ
−環境・自然・省エネルギー型社会へ向けて−

株式会社グリーンテック取締役開発部長・農学博士
山岸善忠

1.はじめに
 昭和30年代に始まる燃料革命以前の我々の住む自然環境においては、海岸部にはクロマツ林、鎮守の森の照葉樹林、平野には水田や畑が広がり、背後の丘陵や産地には人の手になるアカマツ林や雑木林が育成し集落はその丘陵と平野の間に在るというのが瀬戸内の伝統的な風景でありました。同時にまた、古来からの「たたら」製造に係わる物と人の流れが、山陰と山陽を結ぶ交通の要所に集落発達させ、島嶼部を含む備後地方の伝統的な独特の風景を作ってきました。クロマツ林は防風林となり、アカマツ林や雑木林は燃料や土木建築材或いは農耕地用の緑肥や堆肥の供給源として、またこれからの林床のキノコや山菜、それに野鳥や小獣を含む食料産地として人々の生活に深く係わっていました。先人達は、この「里山」の利用を核とする地域経済システムを確立し、過去から現在に至る営々と続く時間の流れの中で、ここ備後地方の環境により支えられ、伝統文化を受け継ぎ育んできました。
 しかし、残念なことに様々な近年の大規模な人間の生活活動を通じ、地域の自然が破壊され、それに続き、さらに広く地球全体にわたる規模での環境変動が起こり始めています。原因として、資源の大量消費と大量の廃棄物を生じる社会構造が問題となっています。その表れとして、化石燃料の大量消費による地球の温暖化、酸性雨、オゾンホール拡大等々地球規模での環境悪化が云われ、国を超えて様々な対策が打ち出されています。一方、我々自身でも身近ですぐにでも手を着けられる問題として、この大量消費・大量廃棄物を生む社会を捉えなおす必要があります。また、地域住民による、広域的なつながりを持った環境保護(循環型社会の構築)意識の高まりと具体的な環境保護の方法手段の確立が急がれています。
 また、国では、平成7年10月に「生物多様国家戦略」を定め、我々の子孫の代になっても、動植物を含む様々に多様な生物の恵みを受けることができるように、基本方針と施策の方向性を示しました。即ち、@自然の状態に応じた適切な保全−自然の豊かなところでは、その維持に努め、自然の少ない都市などでは生き物が住める環境作りを行う。A自然や生物について調査研究を進め、知見を増やすこと。更に、生物多様性保全推進のため、自然・環境教育の必要性を揚げています。つまり、教育の場は学校だけでなく、「こどもエコクラブ事業」「自然に親しむ運動」「身近な生き物調査」等々、次世代を担う子供達や、親子の活動、また、経験豊かな古老との交流を通じて、環境や生物及び各地域の固有の歴史への理解を深めようというものです。我々は、このような時代の要請にも応え、自然と共に暮らしてきた日本人の伝統を現代に生かし、忘れられた身近な「里山」利用を通じ、物の生産や自然との関わり合い、また、生活廃水処理やゴミ処理の学習を通じ、物の循環やその意味(微生物と植物と人とのエコシステム)を学び、同時に備後地域住民に身近な生き物との触れ合いや、環境体験学習の場を創造しようというものです。

2.自然との共生
 人間の経済活動が自然環境に付加を与えていることを理解し、製造業に於ける省エネ対策、農業における化学肥料や農薬の使用料の軽減、日々の生活から生ずる資源ゴミ、生ゴミや排水他からでる結う気質を含む資源のリサイクル等、できることから積極的に進める必要があります。また、地域ぐるみで回りのまだ残っている豊かな自然環境の保全及び地域資源の保全と有効利用を心がけることも大切です。まだ日本国土の60%以上が森林で覆われているという事実は、森の生態系を伝統的生活文化の中に巧みに取り入れてきた祖先の知恵のおかげであるということを改めて考え直す必要があると思います。

3.環境創造森林公園、水源林、堆肥センター、生ゴミ処理施設を有機的に統合し、それぞれを、 「里山利用体験ゾーン」 「ビオトープ自然体験ゾーン」及び「循環型社会リサイクル体験ゾーン」 「太陽及び風の恵み活用ゾーン」 「各市や町の歴史体験ゾーン」とします"また、無駄のない「勿体ない」を基本とした資源のリサイクル、雨水及び生活排水の再利用等々、環境創造や歴史の体験に配慮した施設づくりを基本とします。

3-1)体験を通じての環境保護の啓蒙
単に読んだり見たりして知恵を吸収するのではなく、いろんな体験を通して知恵を吸収してもらうために、可能な限り体験型の施設づくりを目指します。
○里山利用体験
「古里の森」の復活―森林公園等を利用し、ドングリの森及び地域固有の照葉樹林の育成記―落葉広葉樹林の構成要素であるドングリのなる木、即ち、クヌギ、アべマキ(質はよくないがコルクが取れる)、コナラ、ミズナラ等の落葉コナラ属の木を育成する。また、照葉樹林を構成する常緑のコナラ属のウバメガシ、アラカシ、シラカシ、ウラジロガシ(薬用木)他、シイノキ属のシイノキ、ツブラジイ、スダジイ等、ツバキやサザンカの育成圃場を作り、教育の場とする。民間薬等で利用されている日本製ハーブであるドクダミ、ゲンノショウコ、センブリ他、薬草類の見本園と薬草喫茶店の運営も時代の先端をいく事業とする。
縄文時代からの食糧としてのドングリ→ドングリの澱粉を用いた加工食品の試作。
クヌギのホダギの利用→シイタケ栽培見本圃場。
使用済みホダギの廃物利用→カブトムシ、クワガタムシ類の養殖。
・ドングリ林に放ち、夏の間、子供達に自由に取ってもらう(但し、捕獲制限数を設ける)。昆虫標本の展示ではなく、林の中で生きた状態で観察できる施設を目指す。
中国山地〜瀬戸内の在来の希少種を含む草木類の展示と紹介。
エヒメアヤメ、カザグルマ、サギソウ、フシグロセンノウやエビネ他→名標の整備(写真と説明文)
・人工繁殖した希少種の定植、販売も行う。
「里山利用学習林」―展示と収穫体験―
オミグルミ、クリ、ハシバミ、カキ、ヤマブドウ、サルナシ、クワ、キイチゴ他の経済作物を整備し、里山資源としての利用と収穫の楽しみを学習する。
キイチゴ、ブルーべリー及びプルーン類の展示と生産圃場の整備及びオーナー制度。
主要品種の展示と品種改良の歴史を紹介→実験圃場として整備する。
果樹オーナー制度→収穫の楽しみを提供する(年会費削。メンテはセンターで行うが、収穫は個人に任せる)。
アカマツ林の整備
木材(梁)としての利用、葉やアカマツ炭の利用の歴史を紹介(タタラ製鉄に由来する中国地方のアカマツ林の成立と管理の歴史)する。
マツタケを含むキノコ類の栽培実験圃場の整備→枯れ葉、枯れ枝、枯れ木及びシダ類の除去やアカ
マツ苗の植え付け他、アカマツ林の手入れ。
ウバメガシや竹他、雑木林の造成。
自然環境の変遷(サクセッション)や、自然環境の維持に必要な人手の加え方、雑木林の位置付け等の自然学習の場を提供する(里山の保全と資源の確保)。また、ウバメガシ等、雑木及び竹の炭焼き過程を経験し、資源としての里山の意味を考え直す機会を提供する。
炭焼き小屋の整備→炭、竹炭、木搾液、竹搾液の製造。製造過程で生ずる灰も販売する(土壌改良剤、茶釜用の灰としての用途も)。
和紙等の繊維作物→コウゾ、ミツマタ、ガンピの繊維による和紙の製造。
カラムシ、アサの上布の草木染め。
ビオトープ自然体験
トンボやメダカ及びホタル等の水生生物や湿性植物、野鳥など多様な生物が共生する複合的な自然環境・ビオトープを作り、次世代を担う子供達をはじめ広く市民の為の環境体験学習の場、即ちビオトープ・トンボ、メダカやホタルの里を復元する。
池と小川の整備
生活排水の浄化施設を兼ねた水系エコシステムの構築。

3-2)循環型社会リサイクル体験
有機質資源の循環の重要性を体験的に経験する場を提供する。即ち、浄化槽排水の微生物処理効果ならびに肥料効果を体験する場を市民農園として提供する。
生ゴミリサイクルの充実→生ゴミ処理施設の拡充。
・生ゴミ、牛糞、豚糞、鶏糞の―括処理施設を提案。
メタン発酵による発電、或いは備後地区の有機農業の為の有機堆肥を提供する。
家庭廃油の燃料化→廃食用油は回収、再生すれば資源になる。
・ディーゼルエンジン燃料として使うためには、粘度を下げる必要がある。その方法の―つがエステル化。

3-3)各市や町の歴史教育
縄文時代に始まる製塩の体験施設や古墳時代に始まると云われるタタラ製鉄の遺構を活用し、年間を通じて砂鉄堀から始まるタタラ製鉄過程を体験できる施設を作り、同時に備後各市や町の歴史を学ぶ場を提供する。

4.まとめ―自然資源の利用と経済活動
自然資源の利用という時に、加工と製品化に大量のエネルギーが必要とされる放物資源と、太陽エネルギーに依存する植物(―部、微生物を含む)により生産される生物資源(バイオマス)に分けて考えるのが理解しやすいと思います。更に、鉱物資源も消費すれば無くなる化石資源と、金属資源のようにリサイクル可能な資源に分けて考える必要があります。云うまでもなく生物資源は、太陽エネルギーと人間の経済活動の中で生じたゴミや排水を有機肥料として使いこなすことにより、持続的に利用可能となり得るのです。
我々は我々自身と生きとし生ける物全ての社会の持続的な発展のために、生物学的発想で物質循環機能を生かした、本来の自然の生態系に見られる―連の循環システムを取り込む事が必要となってきています。このような状況に在って、我々のなすべき事は、物質循環機能を生かした環境保全を基本概念とし、環境を健全で恵み豊かなものとして維持していくこと、即ち、太陽エネルギー利用、潮力・風力エネルギー利用、資源・廃棄物利用、排水及び雨水利用、更に、豊かさの見直しによる省エネ他の方法により、備後地域を自然保護のモデル地域として育てることにあります。